ウクライナ戦争と安倍総理殺害【佐藤健志】 |BEST TiMES(ベストタイムズ)

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ウクライナ戦争と安倍総理殺害【佐藤健志】

佐藤健志の「令和の真相」45

 

◆〈反日〉は戦後日本のテンプレだ

 戦後日本は、憲法前文に示されるように、自由民主主義の優位性を自明視するところから出発しました。

 こうなると、戦前、ことに昭和初期の自国のあり方は全面的に否定されねばなりません。当時のわが国は、自由民主主義の優位は世界恐慌によって過去のものになったと判断、国家主義、ないし全体主義に走ることで、アジアにおける地域覇権を確立しようとしたのです。

 

 したがって自由民主主義の優位の自明視は、戦前否定の自明視とイコール。

 そのうえで、アメリカの覇権、および同国への従属を肯定する立場の人々が「保守」と呼ばれ、否定する立場の人々が「革新(=左翼)」と呼ばれるにいたりました。

 けれどもプーチンの指摘ではありませんが、覇権国への従属は「少数者の利益と意見」としばしば矛盾するはず。

 この場合の「少数者の利益と意見」とは、ずばり日本の国益と主権です。

 

 つまり対米従属は、相応のメリットがあったとしても、ナショナリズムの理念に適(かな)ったものとは言えません。

  ならば保守はナショナリズムに否定的な立場であり、革新こそナショナリズムに肯定的な立場、となりそうなものですが・・・

 あら不思議!

 現実は逆なのです。

 

 革新の末裔(まつえい)である「リベラル」は、今なおナショナリズムと聞くや、感情的に反発する傾向が強い。

 そして保守は、自分たちがナショナリズムを重視していると、少なくとも主観的には信じている。

 このねじれはなぜ生じたのでしょう?

 

 『平和主義は貧困への道 または対米従属の爽快な末路』をお読みになった方は、ピンと来るのではないでしょうか。

 戦前の自国のあり方を否定しようとするあまり、戦後日本においては、国家そのものを否定的に捉える発想がテンプレとなってしまったのです。

 敗戦いらい、わが国は根本が「反日」なんですな。

 

 ゆえに革新は、アメリカの覇権に反発しつつも、ナショナリズムを肯定することができなくなった。

 それどころか反米にこだわるあまり、自由民主主義より共産主義(社会主義)にたいして好意的になる始末。

 第二次大戦後の世界では、ソ連(現ロシア)率いる共産主義陣営が、アメリカを中心とした自由主義陣営と、長らく対立していましたからね。

 

 

◆親米保守と統一教会の共通性

 ならば保守は、なぜナショナリズムを(主観的には)肯定しつつ、対米従属に走ったのか。

 お分かりですね。

 革新の裏返しです。

 つまりは共産主義の否定にこだわるあまり、ナショナリズムを唱えつつも、覇権国アメリカへの追随を受け入れた。

 革新がナショナリズムにたいし、アレルギー的な拒否反応を示してくれるおかげで、それでもナショナリストとしての格好がついたこともつけ加えておきましょう。

 で、こちらも今なお対米従属一辺倒。

 

 だからこそウクライナ戦争への反応も、ほとんどの場合、アメリカにぴったり寄り添ってロシアを非難する(保守)か、「とにかく戦争はよくない」という観念的な平和主義に終始する(リベラル)かのどちらかになってしまうのです。

 反米の心情を抱え、共産主義にも好意的だった過去を持つリベラルは、本来ならプーチンに肩入れすべきところでしょうが、「自由民主主義の優位に挑戦して地域覇権をめざす」というロシアの行動は、昭和初期の日本とまるで同じですからね。

 と・こ・ろ・が。

 

 冒頭で述べたとおり、統一教会の教義には反日的な要素が目立つ。

 わけても戦前の日本を強く否定しています。

 しかるに北朝鮮との対立が続く韓国で生まれたことも手伝って、同教団は長らく反共、共産主義の否定も旗印にしてきました。

 「国際勝共連合」という関連団体まであるくらいです。

 

 根本において反日、わけても戦前否定だが、共産主義の否定にもこだわる。

 おっと!

 親米的な保守のあり方そっくりではありませんか。

 保守派のナショナリストと目された安倍総理が、統一教会と懇意にしていたのも、こうなると矛盾どころか、必然の帰結と評さねばならない。

 現に同教団は以前より、反共をテコにして、わが国の保守に食い込んでいたと言われます。

 

 ここから導きだされる結論は一つ。

 戦後日本のナショナリズムは、じつは反日なのです。

 より正しくは「反共でカモフラージュされた反日」。

 対米従属だって、突き詰めれば日本の国益や主権の否定、すなわち反日に通じますからね。

 

 本来の意味におけるナショナリズムなど、戦後日本には存在しない!

 ウクライナ戦争と安倍総理殺害は、この真実を浮き彫りにした点でつながっているのです。

 しかしこれでは、国の存立や繁栄を長期にわたって維持するなど望むべくもありません。

 『感染の令和 またはあらかじめ失われた日本へ』のサブタイトルではありませんが、戦後日本は「あらかじめ失われた国」なのです。

 

 そして2020年代の世界は、わが国のアイデンティティの基盤を、いよいよ根底から突き崩すかも知れない。

 この先は次回、お話ししましょう。

 

文:佐藤健志

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次の3冊を題材に、最新の話題と深い分析を融合させ、他では得られない洞察と知見を提供します。

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佐藤 健志

さとう けんじ

評論家・作家

 1966年、東京生まれ。東京大学教養学部卒業。

 1989年、戯曲『ブロークン・ジャパニーズ』で、文化庁舞台芸術創作奨励特別賞を当時の最年少で受賞。1990年、最初の単行本となる小説『チングー・韓国の友人』(新潮社)を刊行した。

 1992年の『ゴジラとヤマトとぼくらの民主主義』(文藝春秋)より、作劇術の観点から時代や社会を分析する独自の評論活動を展開。これは21世紀に入り、政治、経済、歴史、思想、文化などの多角的な切り口を融合した、戦後日本、さらには近代日本の本質をめぐる体系的探求へと成熟する。

 主著に『感染の令和』(KKベストセラーズ)、『平和主義は貧困への道』(同)、『右の売国、左の亡国 2020sファイナルカット』(経営科学出版)、『バラバラ殺人の文明論』(PHP研究所)、『夢見られた近代』(NTT出版)、『本格保守宣言』(新潮新書)、『僕たちは戦後史を知らない』(祥伝社)など。共著に『新自由主義と脱成長をもうやめる』(東洋経済新報社)、『対論「炎上」日本のメカニズム』(文春新書)、『国家のツジツマ』(VNC)、訳書に『[新訳]フランス革命の省察 「保守主義の父」かく語りき』(PHP研究所)、『コモン・センス 完全版』(同)がある。『[新訳]フランス革命の省察 「保守主義の父」かく語りき』は2020年、文庫版としてリニューアルされた(PHP文庫。解説=中野剛志氏)。

 2019年いらい、経営科学出版でオンライン講座を制作・配信。『痛快! 戦後ニッポンの正体』全3巻、『佐藤健志のニッポン崩壊の研究』全3巻、『佐藤健志の2025ニッポン終焉 新自由主義と主権喪失からの脱却』全3巻を経て、最新シリーズ『経世済民の作劇術』に至る。2021年〜2022年には、オンライン読書会『READ INTO GOLD〜黄金の知的体験』も同社により開催された。

 

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